グエルチーノ展 @国立西洋美術館

 よみがえるバロックの画家 グエルチーノ展 3/3~5/31

 

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   グエルチーノ(1591-1666年)はイタリア・バロック美術を代表するがかとして知られます。カラヴァッジョやカラッチ一族によって幕が開けられたバロック美術発展をさせました。一方、彼はアカデミックな画法の基礎を気づいた一人でもあり、かつてはイタリア美術史における最も著名な画家に数えられました。19世紀半ば、美術が新たな価値観を表現し始めると、否定され忘れられてしまいましたが、20世紀半ば以降、再評価の試みが続けられており、特に近年ではイタリアを中心に、大きな展覧会が開催されています。

 *********  フライヤーから一部抜粋

 

 会場に入ると大きな二枚の絵画がお出迎え。ルドヴィコ・カラッチの《聖家族と聖フランチェスコ、寄進者たち》と《祈る聖カルロ・ボッロメーオと二人の天使》

キャプションでも指摘されているが、二つの絵画が同じモチーフを意識していることは明らか。しかし、大きく違うのは、前者が下から徐々に人々をたどりながら聖母マリアとキリストを仰ぎ見る構図になっているのに対し、後者はキリストを見上げ祈る聖カルロ・ボッリメ―オを鑑賞者が横から見るという形になっている。鑑賞者も寄進者たちと一体となり聖家族を見上げるカラッチの作品のほうが神々しく、躍動感に溢れるように感じる。

 本展の作品のほとんどは大画面であり、バロック画家グエルチーノの魅力を余すことなく楽しむことができる。

 

 劇的な画面構成と陰影。バロック絵画の特徴そのままの巨大作品群はいずれも聖者を見上げる仰観である。しかし、布の質感は、サテンや絹といった柔らかなものとはほどとおく、プラスチックやディズニーランドの装飾のように嘘くさく硬質である。ディテールへのこだわりについては巨匠カラヴァッジョには比べるべくもないが、人物の勢いある動き、広々とした構図は見ていて飽きることがない。

 

 展覧会構成は同じモチーフや人物、逸話の違う作品を見比べることができ、楽しい。また、ローマ滞在以後のグエルチーノの作風変化も明確にとらえることができる。《放蕩息子の帰還》は、それまでの強いコントラストやダイナミックな人物は位置からはなれ、質感や人々の表情に注意が払われている。それまではこわばり、差が見えづらかった人物の表情も、うっすらと血色のよい頬は柔らかで、微かな口角から感情を見ることができる。

 

 不勉強故、晩年のグエルチーノ作品変化を概観することは当然できないが、注文主の要望に答え、売れる絵画を素早く生産するためにルクレチアやクレオパトラ、宗教画が描かれるようになってからは、それまでのダイナミズムは息をひそめ垂直性やシンメトリーが強調されるようになる。大画面作品が売れにくいのはわかるが、どうにもグエルチーノの作品は近くでじっくり鑑賞するに堪える作品ではないように思う。広々とした室内で、ゆったりと見るのに適した絵を描く画家である。